西へ、明石へ。
時間の壁、距離の壁にぶつかるという。
確率的に存在は予想できても、
接触までに至らぬ最大の理由らしい。
ほんの2000年前には、イスラームはまだなく、
ユダヤ教の改革派からキリスト教が生まれ、
そのキリスト教も激しい弾圧を受けていた。
現代の人類が克服すべき不寛容を思うとき、
きわめて長いスパンのキャッチボールに、
地球人の文明はついて行けるのか。
いや、事故渋滞の阪神高速神戸線、
麻耶ランプあたりで、つい考えてしまった。
おもえば、昨夏、家人が相次いで、
明石で玉子焼きを食べてきたのが発端。
明石焼きとも呼ぶ私の大好物を、
私が大好物と知って、私を置いて、だ。
それから9カ月以上が過ぎ、
なんとか少ない休日をやりくりして、
ようやく西に向かった高速道路が渋滞。
自宅を出て1時間もすれば、
明石で明石焼きを食べられるはずなのに。
これは、神の意思か悪戯か。
何か怒りか恨みでもかっているのか。
渋滞を過ぎたころは、予定を40分過ぎていて、
京橋で降りて三宮で食べようか、とさえ思った。
だが、冗談でなく、次が何時かもわからぬ身、
強行することにした。
愛車、西へ、明石へ。
ふひょひょひょひょ。
明石焼き祭りの始まりだ。
〇まるまる
山陽電鉄明石駅、駅前ビルのなか。
創作タコ焼きも多い有名店らしい。
薄味のお出汁と細かく刻んだ三つ葉。
これが明石の卵焼きの基本。
夜空にぽっかり浮かんだ月のよう。
タコも立派で味わい深い。
基本メニュー。
大阪たこ焼きも食べたかったが、
諸般の理由で断念。
〇かねひで
『魚の棚』商店街の真ん中あたり。
店頭でタコ飯などの販売もある。
色白のベッピンさん。
表面の香ばしさは少ないが、美味い。
こちらでは、
粗みじん切りの三つ葉と青ネギが薬味。
玉子焼きもお出汁も明るい色。
でも味とコクはしっかりしている。
箸でつまむのには、結構スキルが要る柔らかさ。
タコも大きめ。
基本メニュー。
タコ飯は、売り切れ。残念。
と、みつけた。
気になるお品書き、「穴子の棒揚げ」。
これだ。
穴子1匹丸ごとの天ぷら。
揚げたての香ばしさに我慢できず、
キリン・フリーもいただく。
後からわかったのだが、
このお店は、もとは天麩羅屋さん。
揚げたてを総菜として売っていたらしい。
今度は、タコの天ぷらを食べよう。
〇きむらや
「本家」を名乗る、明石の玉子焼きの老舗。
こちらの基本は、20個。
だが、やや小ぶりで、見ていると、
女性も一人で普通にオーダーしている。
旅行者風の若い女性、上品な奥さん、
みなさん、うれしそうだ。
ここのお出汁は、お椀に注がれ、
刻みネギも先に入っている。
味は、かなり濃い目で、ほとんどうどん汁。
薄味に慣れているとちょっと驚く。
近所のおじさんたちが、
おでんのタコをアテにビールを飲んでいた。
うらやましい。
明石の魚の棚には、「昼網」と呼ばれる、
一種のタイムセールがある。
遅めの昼時に合わせて水揚げされた、
明石海峡ものの魚の売り方。
かねひでを出たとき、ちょうど観光バスも着いて、
通りはごった返していた。
で、あとから撮影しようと思っていたら、
準備中で、店頭がさびしくなっていた。
まるまるさんは、店頭の画像がない。
次回は必ず。
今回の3店食べ比べで改めて思ったのは、
玉子焼の奥深さだ。
明石の玉子焼きは、表面のカリ感、
全体のフワ感、中身のトロ感が大切。
まるまるさんは、
カリ・フワ・トロのバランスがいい。
かねひでさんは、
とにかく軽く、フワトロフワトロ、いくらでも食える。
きむらやさんは、粉の比率が高いのか、
中身は、しっかりめ。
どの店も卵液や出汁に工夫を凝らし、
優劣つけがたい。
たった3店でこれだ。
ところが、ほかにも有名店は多い。
再訪を強く心に決めて、帰路に就いた。