実家発掘 3 銀の食器
箱にかすかに覚えがあった。
"Schoonhoven-Holland"の文字を見つけて、
記憶の覚醒が、加速した。
学生時代後期、留学か大学院進学で迷っていた。
まあ、いわゆる、モラトリアム。
で、なんだかんだの理由をつけて、
ヨーロッパに遊んだ春休み、
両親の銀婚式が近いことを知った。
始めの15年は、紙だの藁だの皮だの、
毎年名前がついているのに、
銀婚式から金婚式まで25年もあって、
その間5年刻みで、ちょっと投げやりな感じがする。
きっと、15年くらいが節目なんだ。
いや、まあ、いい。
いずれにせよ、親の銀婚式に何かしたいと思った。
ちなみに銀の食器は、
古くから支配階級や富裕層に人気があった。
ヒ素化合物などの毒薬に対する反応が速いため、
と言われている。
それはともかく、オランダで銀器の店を探して買ったのが、
このデザートスプーンのセット。
モラトリアムな人生を送りつつあることに対して、
懺悔といささか賄賂の性格が濃いプレゼントだったと思う。
何げなく箱を裏返して底を見て絶句した。
年月日と銀婚記念に私から贈られた、ということが、
怪しい英語で記されていた。
これだから実家の整理は嫌なんだ。