のれそれ

ノレソレとは、ふざけた名前だが、美味しい。穴子の稚魚を瀬戸内地方と四国で、そう呼ぶ。春の珍味。いや、単に珍しいだけでなく、実際とても美味。『食材図典』にも載っていなかったし、一種の郷土食だと思う。先日も梅田の居酒屋で(ここは、刺身系がいい)のれそれが出され、狂喜した。4月の半ばだと、もう遅いと思っていたから。もう、半ば穴子に育っているのでは、とあきらめていたのだ。小鉢に一つまみか二つまみの透明で平たい淡白な小魚を紅葉おろしとポン酢、酢橘でいただく。考えてみれば、とてもゼイタクだ。小鉢の彼らを丁寧に養殖すれば、穴子の握り寿司が何人前取れることか。このご時世にクレームも自粛の動きもないようなので、とりあえず美味しくいただいている。

さっき須磨海浜水族園のメルマガが届き、さっそく興味を惹かれる記事を見つけた。『ヒラメの赤ちゃんの展示』だそうだ。話には聞いていたが、ヒラメも稚魚のあいだは普通のサカナのように左右対称なのだが、大きくなるにつれ眼が左に移動し、骨格や筋肉も変化するという。眼が今、まさに左に移動しつつある赤ちゃんヒラメの展示だというから見逃せない。ヒラメの赤ちゃんも美味しいのだろうか、という下世話な興味もだが、自然の神秘に畏怖を覚えるいい機会だろう。

実は私は、のれそれを食べた居酒屋にメガネを忘れた。このメガネは、悪運と美食のバロメーターのような存在で、美味しく飲み食いして忘れられることもしばしばだが、必ず帰ってくる。今回も翌々日には、手元に戻った。私は、土曜の閉店間際の客だったが、店は日曜定休。店のお姉さんは、迷路のような新梅田の居酒屋街で後を追ってくれたそうだ。

いい店は、何より「人」もいい。カウンターだけ10席ほどのこの店も大将ともう一人板さんが居て、お姉さんが3人で忙しく働いている。心配なほどスタッフが多い。JR大阪駅からも近く、というか、大阪駅の巨大なガード下の一角に位置するが、この辺りだけ異空間のようだ。しかも、客のほとんどが良識的なサラリーマンで厄介な酔っ払いも少なく、安心して飲める。おすすめだ。
by hirorin330 | 2005-04-29 12:38 | 美食