ポルタティフオルガン / M.ボッシュ

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そういうと驚かれることが多いが、
拙宅には、小さなパイプオルガンがある。

いや、アダムスファミリーでもネモ船長でも、
ジョーンズ船長でも、もちろんリッチマンでもない。

しかし、映画に出てくるパイプオルガンって、
悪役イメージが強すぎないか。

閑話休題、パイプオルガンではあるが、
ポルタティフと呼ばれる小型の楽器。

文字通り運搬も可能で、
実際に演奏会場に運んだこともある。

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鍵盤数は、54鍵盤で、音栓(ストップ)はなく、
木製の閉管パイプが54本並んでいる。

実は、54本という数は、
通常のポルタティフより、音域が若干広い。

これには訳があって、もちろん演奏用の楽器だが、
実験にも使いたいと思っていた。

何の実験かというと、調律法である。
バッハの通称「平均律」を試してみたかった。

1オクターブを12の均等な半音に調律する方法は、
実は、ごく最近までは、行われていなかった。

少なくとも、バッハの時代には、
理論上でしかなかった調律法だ。

じゃあ、どんな音が鳴っていたのか、
そういうことも研究対象にしていた。

いや、遠い昔。
ドイツが、まだ二つあったころ。

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で、ミヒャエル・ボッシュの登場だ。
この楽器は、彼に作ってもらった。

彼は、ボッシュ社の次男坊で、
当時、マイスターの修行中だった。

無理なお願いと思ったが、
自分の勉強にもなるからと、快く引き受けてくれた。

日本に運ぶのも、電源の交換も、
すっかりお世話になったけ。

完成した楽器が届いたときは、
うれしかったなあ。

チューナーとにらめっこしながら、
色んな調律法で調律した。

が、パイプは54本なので、調律が簡単、
と思ったが、浅はかだった。

なにせ、これが正解、という音はない、
といっていい世界なのだから。

結局、挫折を経験し、夢破れ、
学位も取らずに帰国した。

子どもたちも音楽を仕事にすることはなく、
今では、この楽器は、だれも弾かない。

人生も守りの時期に入ったせいか、
無性に哀しくなった。

久しぶりにスイッチを入れると、
モーターが静かに回り、風が生まれる。

なぜかヘ長調の気分で、
短いカデンツァを何回か弾いた。

パッヘルベルが弾きたくなったが、
何本かのパイプはくるっていた。

あらかじめ指で穴をふさいだリコーダーが、
何本も並んでいるという感じの楽器。

たちまち、修正して、改めて弾いた。
やわらかい音が響く。

ああ、やっぱり、楽しい。


いや、少し飲みすぎたかな。
by hirorin330 | 2014-09-14 22:00 | 音楽