帝国ホテルの列車食堂

帝国ホテルが東海道新幹線の列車食堂として営業していた頃、当然私は子供だったし、一人旅で乗ったわけではない。父の出張にお供するのだが、父は、「格が違うんだ。」といつも帝国ホテルが営業している数少ない「ひかり」を選んだ。子供の私は、「列車食堂」というだけでワクワクしたものだが、真っ白いテーブルクロスもまぶしい帝国ホテルの食堂車は、やはり全ての点でちがった。

たとえば「ハムサラダ」。たしかフランス風の名前がついていたようだったが、ハムも違えば、添えられるマヨネーズソースも違う。まさに「格」がちがった。

ハムは、おそらく骨付きのまま、肉を整形しないで加工したハムで、脂肪の白い部分もたっぷりあり、豚肉をそのままちゃんと加工しました、というのが一目でわかる断面で、しかも広大とさえいえる面積だった。その後もしばらくは、この手のちゃんとしたハムは、ホテルでしかお目にかかれない時代が続いたものだ。

父は、スモークサーモンを肴にビールを飲むことが多かったと記憶しているが、舌平目のムニエルも好物だったようで、今でも一緒に食事をすると帝国ホテルの「ハム」「スモークサーモン」「舌平目」のはなしは、ちょくちょく出てくる。

実際、「帝国ホテル」の名に恥じない食事を提供してくれていたと思う。そして、それゆえの撤退もかなしいけれどうなづける。東京大阪間は、日帰りビジネス客が主流となり、ひと時のくつろぎと優雅さを旅に求める時代ではなくなっていた。

脂肪をちゃんと残したハムを見るたびにうれしくなり、あの頃の列車食堂を思い出す。しかし、それにしても、おそらくはこそげとられたであろう、あの白い脂身はどこへ行くのだろう。私なら、それだけをだされても幸福な気分になれるのに。ああ、もったいない。
by hirorin330 | 2005-04-12 12:40 | 美食